「この本は希望の本なのだと思う。
希望に満ちた気持ちが幅広い年齢層の読者に愛され、
記憶に残る本になった」
その「希望の本」とは、1969年に発売され、
全世界で15秒に1冊が売れるペースで、
50年以上にわたり愛され続けていると言われます。
タイトルは、
『はらぺこあおむし』。
日本では偕成社が出していますが、
多くの方が子供のころに読んだ記憶があると思います。
作者のエリック・カールさんが、
5月23日。91歳でお亡くなりになったそうです。
生涯で40冊くらいの本を残したとのこと。
簡単なようで、
1冊にかけるエネルギーは大きかったのでしょうね。
☆
私は「絵本を描きたい」という人がいると、
「エリック・カールさんの本を研究してね」
と、必ず言います。
「いや、虫の本なんて、気味悪いでしょう?」
でも、その虫の本に全世界の子どもが
必ずのように一時期、引き込まれるわけです。
色彩であったり、絵のパターンであったり、
そこには大きく子どもの心をとらえる要素がある。
私も多分そうだったし、10年くらい前は、
甥っ子もかなりくいついていました。
何度も何度もページをめくっていたのを憶えています。
どうして子供たちに愛されるのか?
当人もその秘密は、よくわかってなかったようですが、
このセンスがないと子どもにウケる本は
描ききれない……ということなのでしょう。
☆
じつは出版社も最初、
青虫の本を出すことに抵抗があったようです。
しかも最初の本は、
ページによって形を変えたり、
破ったりで、なかなか製作も大変だったとのこと。
それでも紆余曲折を経て、
世界でもっとも子どもたちに愛された本は
生まれました。
結果的にはこれが奇跡の本になったわけですね。
☆
カールさんはもともとドイツで生まれ、
父親はロシアで捕虜になり、
苦しみを抱えてアメリカに渡ったそうです。
だからこそ、醜く生まれたあおむしだって、
お腹いっぱいに食べて
チョウになり、幸せになってほしいと願った。
まさに子供たちに向けて、
希望を解きたかった絵本でもあったわけです。
そんな願いが普及のベストセラーに
結びついたのでしょう。
素晴らしいお仕事に、
ただただ私たちは感謝したいものです。
[常識転換の読書術]