今、重要性が増している「抽象化」の技術

夏川が読んだ本の紹介、

久々になりますが、紹介したいのはこちらの本。

『具体と抽象』
(細谷功著、dZERO)というもの。

2024年に発行され、何度も重版を重ねている
ロングセラーの本であるようです。

この「具体」と「抽象」は、
本の編集には絶対に必要な要素で、
たとえば編集者としてインタビュー取材をする際に、
私が最も多くする質問は何かといえば、
「具体的にお願いします」
という話です。

というのも、だいたい人は自分の考えを聞かれたとき、
「お客さんに感動させられたんです」とか、
「私の上司はすごかったんです」なんて、
抽象的な話をすることが多くなります。

だから「何に感動したんですか?」とか、
「どうすごいんですか?」と
具体的に聞く必要がある。
そうでないと、
読者にはまったく伝わらない話を
延々とすることになってしまうんですね。

ただ、本書で重要なことは、
具体的に伝えることの重要性ではありません。
著者が言っているのは、次のようなことです。

「人間の知性のほとんどは
抽象化によって成立しているといっても
過言ではありませんが、
すべて『具体性』が重視される
『わかりやすさ』の時代には
それが退化していってしまう可能性があります」

実際、人間のコミュニケーションは、
ほとんど抽象化の能力によって成立しています。

つまり、「女性」とか「犬」とか、
「格好いい」とか「胸熱である」とか、
すべての言葉は、
“たくさんの具体”を1つの言葉に集約させて
相手に伝えるために存在しているわけです。

ですから本を書く場合も、
たくさんの具体例を集約し、
それを基にして
ズバッっと抽象化させた理論を読者に納得させる
……ということを、
本当はできなければいけません。
小説などを別にすれば、
良書というのは、そういうものですよね。

ところが現代は、ネットでも
メディアで要望されるコメントでも、
短い「具体的な話」による情報ばかりが
氾濫する世の中になっています。

みんなそれを抽象化することができないから、
全体的な話をすると、
なんとなく稚拙になってしまう。
本が売れなくなっているのも、
そういうところが原因になっているのかもしれません。

だから、あらためて
「抽象化する」という能力を
私たちは鍛えなければいけないのではないか……?

この点はやはり「書く」ということが、
一番のトレーニングになるような気もしますね。
そろそろ私も文章教室などを
再開したくなってきました。

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