画像は私が現代語訳した
クラウゼヴィッツの『戦争論』ですが、
ウクライナの戦争が始まった2022年に
考察する意味を込めて出版した本。
悲しいことにその戦争がいまだ終結せずに
続いているわけですが、
先日、新しい局面を迎えたようです。
ウクライナ側がロシアの国境の街に逆侵入し、
いくつかの拠点を制圧したというんですね。
十数名とはいえ、民間人の犠牲者も出ている戦況です。
賛否あるだろうし、喜ぶことなどはできない。
でも、これが交渉のとっかかりになり、
戦争を早く終わらせる道筋になればとは
期待してしまいますよね。
にしても、ずっと攻められている側が、
いきなり相手を攻め込むことに効果はあるのか?
1832年に書かれた『戦争論』で、
クラウゼヴィッツさんは、いくつかの例を紹介しながら、
その方法論を提示しています。
「側面をつくことで敵を退却に追い込む」という
戦術ですが、
これを効果的に実行したのは、他ならぬロシア軍でした。
相手は常勝軍団を誇った
ナポレオンが率いるフランス軍です。
当時、ロシアはヨーロッパの北方にある
「田舎の国」に過ぎず、
一方でフランスは革命によって全世界を敵に回した国。
とくに戦術の天才だったナポレオンが指揮し、
国民総出で士気の高いフランス軍です。
他国を圧倒し、ヨーロッパのほぼ全域を
支配下に置く勢いで進軍を続けていきました。
そんな大軍勢がロシアにやってきた。
当然、現代のウクライナと同様、
攻め込まれる一方になっていきます。
ところがそんなロシア軍は、
あるとき軍の一部を差し向け、
フランス軍を後方の側面から攻撃しました。
これは多勢に無勢で、
それでフランス軍に勝てるわけもない。
単なる嫌がらせの攻撃に受け取られます。
しかし補給路が分断されたフランス軍は、
この攻撃によって
一時、物資が前線に届かない状況に陥るわけです。
そしてやってきたのは、ロシアの厳しい冬でした。
狩りをしたり、魚をとったり、
それ以上にありそうなのは略奪をしたり……。
兵は自前で食糧調達したかもしれない。
しかし騎兵が連れていた馬は、食糧が届かないと、
どうにもなりません。
結局はこれがフランス軍のロシア遠征、
断念につながったんですね。
クラウゼヴィッツ流反撃の意味は、
①に連絡線を断つこと、②に退却線を断つこと。
その辺は現代の戦争と、
一致しない部分もあるかもしれない。
敵勢力を分散させる面では共通することもありますが。
しかし圧倒的に攻めている軍が、
ちょっとした隙をつかれ、
一点不利な状況に陥ることは、いくらでもあるわけです。
しかも19世紀当時、脆弱だったロシア軍がやったことを、
今回は弱小と舐めていたウクライナ軍に
そのまんま実行されることになった。
この点からも、
「歴史をちゃんと学ばないといけないな」とは、
思ってしまいますね。