民衆の力は戦況を左右する戦力

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久しぶりに取り上げる夏川の訳書、
クラウゼヴィッツの『超約版 戦争論』ですが、
こんな記述があります。

「ひとたび民衆の間に蜂起の動きが起これば、
隣近所から隣近所へと
結束は広がっていく。
こうして民衆の心に灯った炎は、
遮るもののない劫火のように燃え上がり、
敵の陣地や進路を襲っていく」

フランス革命の後、
ナポレオン指揮下で動き始めたフランス軍を
ドイツやイギリス、オーストリアなど、
当時のヨーロッパ列強王国は
止めることができませんでした。

それは職業軍人から成り立っていた王国軍に対し、
圧倒的多数の民衆がナポレオンに従っていたから。
だからドイツの将校だったクラウゼヴィッツは、
敵国であろうと
「民衆を決して敵に回してはいけない」ということを
戦争の鉄則として説いているわけです。

にもかかわらず、せっかく休戦が実現したのに、
民衆の気持ちを逆撫でするような話が出たのが、
ガザ地区の問題ですね。

トランプ大統領がイスラエル首相との会談で、
ガザの住民全員をよその国に移住させて、
その地をアメリカが管理するようなことを言い、
今は大批判を受けています。

いろいろ議論はあるのでしょうが、
何よりまだ「休戦中」ですので、
あまり和平プロセスを邪魔するのは考えものですよね。

クラウゼヴィッツの時代から150年くらいが経ってですが、
アラブとイスラエルの対立、
やはり「怒った民衆の蜂起」によって始まっています。

ナチスに迫害されたユダヤ人は、二次大戦後、
自分たちの国を作ろうと、結束して先祖の地に戻ってきた。
その建国によって追い出されたパレスチナ人と
同じイスラム教徒の周辺国の人々の怒りが、
中東戦争の火種となり、現代まで続いているわけです。

ところが21世紀になり、パレスチナとイスラエルの和解も
ずいぶんと進んできました。
とくにイスラエルとイスラムの聖地がある国、
サウジアラビアですね。

今回の戦争は、そもそもそんな和平ムードに
釘を刺そうとしたパレスチナの過激派、
ハマスが引き起こしたテロがきっかけでした。
首謀者はすでに掃討されたと聞いています。

ですから「アラブ民衆の怒り」とは
別なところにあったのですが、
さんざんにイスラエルが民衆の住む街を
無差別に攻撃したから、
結局は怒りが周辺国にまで蔓延してしまったわけです。

それに加え、またもアメリカが火をつけて、
いまはサウジアラビアからまで
批判される状況になりつつある。
これでは最初のハマス過激派の思惑通りになります。

民衆の力で始まった戦争は、民衆が納得しないと、
いつまでも完全な終結を迎えることができない。
時代が変わっても、
平和を望むなら「クラウゼヴィッツの原則」に
戻る必要があります。

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