ガリュウメディア連載の電子出版講座を、賢者ブログでも掲載させていただいていますが、今回は3回目。
「本を書くことで自分のブランドをつくる」という話です。
もともと私は、ビジネス書を出している出版社の編集者でした。
出版社に務めているのだから、リアルな出版に近い位置にはいます。ただ編集者をやっている人間が皆、自身作家になることを望んでいるかといえば、ほとんどいないのが現状でしょう。
確かに著者の文章を手直ししたりする関係で、「書く技術」はそれなりに身につくのです。問題は「何を書くか」ということで、とくに私のようにビジネス書を編集する立場だと、相手にするのは経営者さんだったり、各分野で活躍しているエキスパートの方だったりになります。
編集者もエキスパートといえばエキスパートなのですが、「マネジメント」やら「営業」やら「コミュニケーションやら」といった通常のビジネス現場で求められるものとは、少し異なっています。
だいたい、さぞ名の知れた編集者ならともかく、そこそこの出版社のそこそこの編集者くらいで本を出したって、「いったい誰が買うんだ?」という話になるわけです。自身が作家デビューすることなど、ほとんど考えてはいませんでした。
けれども出版業界というのは、プロダクションがあったり、個人のライターやプロデューサーがいたりと、下請け業が広がっている世界です。
すでに私は現役編集者のころから、会社に内緒で、ライティングのサイドビジネスを行なっていました。ぼちぼちと売上げも伸びてきていたし、当時の会社は私の本の事例でたびたび出てくるように、決して居心地のいいところではありませんでした。
ならば下請け業で独立しよう……と。
当時、編集担当者として、私はまだ独立したてだったアップルシード・エージェンシーの鬼塚忠社長と仕事をしていました。ご存じの方も多いでしょうが、日本ではじめて「作家エージェント」という業種を立ち上げた方ですね。
そこで「独立するから、仕事があったら回してね」なんていう相談をする。すると一言です。
「何言っているんですか! 夏川さん自身が作家になってくださいよ。じゃあ来週までに企画書を出してください!」
えっ……? なんですが、当時はまだ和田裕美さんなどのブレイクが始まる前。作家さんに不足していた事情もあったかもしれません。
とにかくも、そんな形で「夏川賀央」という作家は生まれたわけです。しばらくは自社から帰るその足で、ライバルの別の会社に行って本のプレゼンをする不思議な生活になりましたが、数か月後には無事独立し、作家デビューも実現しました。
●こうして「著者」はつくられる
当初、作家デビューするに当たって悩んでいたのは、「ほとんど出版社でしか仕事をしていない自分が、一般の読者さんに対して何を提供できるか?」ということです。経営経験も営業経験も、ほとんどない。「成功者」なんて言えたものではありません。
でも、業界にいた立場からすれば、難しいことではないのです。ようは「こういうことを語れる、こういう著者がいたらいいな」という架空のキャラを設定してみればいい。露骨なウソはいけませんが、それで読者に役立てることができるなら本としては成立します。
ただ、私の本ではじめて通った企画というのが、結局のところ最も自身に一番近いテーマでもありました。『会社を踏み台にして昇る人 踏み台にされて終わる人』というものです。
それなら簡単、自分の経験を土台にすればいい。とにかく面倒な会社にいて、上手に立ち回って仕事をしてきた変な実績はたくさんあります。
それに自分自身が「昇った人」とはとても言えないのですが、ビジネス書の編集者をやっていれば、たくさんの極めた方にお会いする機会があるわけです。その点は独立してからもずっと変わらない。電子出版の会社をつくった現在は、さらに増えています。
すると別に自分が「できる人」にならなくていい。
たくさんの「できる人」の話をお聞きし、それらを統合して伝える「編集者」になれば、それでいいのではないか……と。
これが現在名乗っている、「できる人研究家」の発想につながっているわけです。
そうして自分自身のキャラが出来上がった。
では、処女作『会社を踏み台にして昇る人 踏み台にされて終わる人』が売れたか……といえば、微妙なところではありました。
確かに増刷はした、合計六千部でしょうか。ただ、この出版社さん、いまはすでにありません。出版不況でどこかに消え去ってしまったようです。
けれども2冊目も決まった。それがPHPさんで『仕事を面白くしたいときに読む本』というもの。やはりキャラが設定されれば、「どう書くか」もわかってくる。1冊書けば、2冊目は非常にやりやすくなるんですね。
ただ、じつはこの本も初版止まりです。
普通は2冊もうまくいかなければ、もうムリなんじゃないか……と思うのですが、それでも私はチャンスに恵まれた。
「できる人研究家」という立場をさらに強化し、「他人のエピソードばかりでまとめた一冊、『成功者に学ぶ時間術』が見事にヒットすることになるわけです。
私が3冊立て続けに出せたのは、やはりアップルシード・エージェンシーがいたから、リアルな出版でそこまでリスクを冒してくれるところは現在、少ないかもしれません。
ただ電子出版は、そこまでの垣根を低くしていることは事実でしょう。次回はその辺の話をさせていただきましょう。
なお電子出版ブログの最新号は、こちらで読むことができますよ!http://senmonka.garyuproject.com/20121220/15369.html